それを聞いたとき まず最初に何故か穏やかな感情が浮上してきた。
そしてゆっくりと驚愕と疑問が歩んできて
虚しさが、襲い掛かってきた。
何が哀しいのかわからなかった。
ただただ虚しさだけが心を満たしていった。
そんなはずない、そんなはずないと理由をつけてその現実に抗おうともしなかった。
ただただ、虚無が襲い掛かってきた。
それから逃れたくて、彼のことを思い出そうとした。
いつもいつも自分をからかう時に見せる意地の悪い笑み。
いつだってその表情に浮かべていた微笑み。
たまにみせた真剣な表情と、悲しみに揺れる眼。
愛おしい、そう心から伝えられるような、笑顔。
思い出したかった。
それなのに何も思い出せなかった。
あんなに傍にいたのに。
あんなに愛されていたのに。
あんなに愛していたのに。
それなのに。
思い出せなかった。
脳裏に焼きついた、彼の死に顔。
その顔を見てもいないくせに、それだけが鮮明に思い出された。
そんな自分に嫌悪を覚えた。
力が抜けた身体が床へと崩れ落ちる。
ただ呼吸しかできない何も出来ない無力な身体。
何も出来なかった無力な自分。
何も 出来なかった。
「
違うよ。」
彼の為に何をしてあげられていた?
彼の為に何をあげることが出来ていた?
彼の為にこの身を差し出したことがあった?
彼は僕の為にたくさんのことをしてくれた
彼は僕の為にたくさんのものをくれた
彼は僕の為にその身を投げ出したこともあった
僕は何もできていなかった
「
違うよ。君はずっと」
僕は彼の為に何も出来なかったんだ
「
僕の傍にいてくれたじゃないか。」
今僕は何を哀しめばいいのだろう。
「
哀しむ必要なんてないんだよ。」
今僕は何を願えばいいのだろう。
「
君自身の幸せを祈ればいいんだ。」
今僕は、彼の為に何が出来るのだろう。
「
ねぇ、僕の最後のお願いを聞いてくれる?」
ああ、それなのに。
心が、叫んでいる。
身勝手な願いを。
もう二度と叶うことのない祈りを。
「もう一度声を、聞かせて」
「
もう一度いつもみたいに、笑って」
彼の声が聞こえたような気がして
涙が、零れた。
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